「どこのメーカーがいいですか」。車の相談で、いちばん多い質問です。 でも、この質問には正解がありません。会社に優劣があるのではなく、得意分野がちがうだけだからです。 そして、その得意分野は偶然決まったものではありません。その会社が、もともと何を作っていたかで決まっています。 この講は、8社を1枚の地図にして見渡す回です。
最初に、少し意地悪なことを言います。メーカーから選び始めると、たいてい失敗します。
順番が逆だからです。何に使うかが決まれば、必要な大きさが決まる。大きさが決まれば、候補は数車種に絞られる。 その数車種を比べた結果として、たまたまどこかのメーカーの車が残る・・・これが正しい順番です。 メーカーは、選ぶ理由ではなく、選んだ結果としてついてくるもの。ここを最初に置いておいてください。
ではなぜメーカーを知る必要があるのか。理由は3つあります。
3つ目は後半でくわしく話します。ここだけでも、この講を読む価値があると思ってください。
日本の自動車メーカーは、最初から自動車の会社だったところのほうが少数派です。 出発点を知ると、いまの車の性格がそのまま説明できてしまいます。
| 出発点 | 会社 | いまに残っているもの |
|---|---|---|
| 織機(布を織る機械) | トヨタ/スズキ | ものづくりの効率と、むだのない作り。安く確実に量産する力 |
| オートバイ・発動機 | ホンダ/スズキ | 回して楽しいエンジン。小さな空間を広く使う設計 |
| 航空機 | スバル/三菱 | 安定して真っすぐ走ること、丈夫さ、四輪駆動へのこだわり |
| 造船・重工業 | 三菱 | 頑丈な作りと、悪路をいく四駆の系譜 |
| コルクの加工 | マツダ | 他社と同じことをしない気質。ロータリーエンジンへの挑戦 |
| 発動機の製造 | ダイハツ | 小さなエンジンを突き詰める力。いまの軽自動車 |
| 自動車の専業として | 日産 | 戦前からの技術の蓄積。新しい動力を先に出す姿勢 |
スバルの車が高速道路で疲れにくいと言われるのは、もとが飛行機の会社だからです。 真っすぐ安定して進むことを何より優先する設計思想が、いまも残っている。 車の性格は、80年前の出発点とつながっています。カタログの数字より、こちらのほうが記憶に残るはずです。
ここが今日の本体です。各社を一言でつかんでください。くわしい歴史・車種の系譜・評判は、各社のページに分けてあります。 気になった会社だけ、あとから深く読めばいいです。
各社の詳細ページは、会社ごとに背景の色を変えてあります。印刷して重ねたとき、どの会社の資料かがひと目で分かるようにするためです。
このほかに、いすゞ・日野・UDトラックスといったトラックやバスの会社があります。 いまは乗用車を作っていないので、この講では扱いません。ただし中古市場では、これらの会社が作った古い乗用車に出会うことがあります。
8社はそれぞれ独立して戦っている・・・と思われがちですが、実際にはかなり手を組んでいます。 ここを知らないと、後半の話が理解できません。
| かたまり | 顔ぶれ | 関係 |
|---|---|---|
| トヨタを中心とした一群 | トヨタ/ダイハツ/スバル/マツダ/スズキ | ダイハツは完全子会社。スバルには2割ほど出資し、相互に株を持ち合う。マツダ・スズキとも資本提携 |
| 日産と三菱 | 日産/三菱 | 日産が三菱自動車の筆頭株主。海外メーカーを含む連合の一部でもある |
| 独立系 | ホンダ | 資本のうえでは独立。特定の分野ごとに他社と手を組む形をとる |
要確認出資の比率や提携の枠組みは動きます。買う時点で最新の形を確かめてください。ここでは「おおまかな地図」としてつかんでもらえれば十分です。
ここが、今日いちばん実利のある話です。
自動車業界には、ある会社が作った車を、別の会社が自社の名前を付けて売るという仕組みがあります。 OEM供給(相手先ブランドでの供給)と呼ばれます。エンブレムと車名がちがうだけで、中身はほぼ同じ車です。
たとえば軽自動車では、ダイハツやスズキが作った車が、トヨタや日産や三菱の名前で売られていることがあります。 こういう組み合わせが、あちこちにあるのです。
つまり、狙っている車が見つかったら「この車の兄弟はいませんか」と一度調べてみる価値があります。 同じ中身で、数万円から十数万円ちがうことがある。知っているかどうかだけの差です。
どの車とどの車が兄弟なのかは、年式によって入れ替わります。具体的な組み合わせは第10講「中古車の目利き入門」で、調べ方ごと扱います。
各社のページには「ネット・SNSでの評判」という項目を置いています。ただし、読み方に注意が要ります。
この講では、各社の不祥事も隠さず書いています。 良いところだけを並べた紹介は、これから何百万円を出す人の役に立たないからです。 ただし、過去に問題があった会社の車がいま危ない、という意味でもありません。 起きたことを知ったうえで、いまの車を自分の目で見る。それが目利きです。
次の講から、この地図を実際に使っていきます。順番はこうです。
| 第4講 | メーカーの地図・世界編(外車の魅力と、維持の現実) |
| 第5講 | 車業界の過去と現在(8社が同時に何を経験してきたか) |
| 第7講 | 何に使うか(用途から必要条件を逆算する。街乗りと高速の比率) |
| 第10講 | 中古車の目利き入門(兄弟車の調べ方はここで) |
| 第17講 | 維持費の全体像(各社の傾向が金額になって出てきます) |
いま家にある車、または身近な人の車が、どこの会社の何という車か調べてみてください。 そして、この講の「出自の地図」でその会社の出発点を見てみる。 毎日見ていた車が、80年前の物語とつながります。そこから車の話は面白くなります。