ここから第2部です。地図編で全体像をつかんだので、いよいよ自分の1台を絞っていきます。 最初の質問は「どんな車がほしいか」ではありません。何に使うかです。 使い方が決まれば必要な条件が決まり、条件が決まれば候補は数台まで絞れます。 この順番を守るだけで、車選びの失敗はかなり減ります。
紙とペンを用意してください。次の3つを、頻度ごとに書き出します。
| 毎日/週に数回 | 月に数回 | 年に数回 | |
|---|---|---|---|
| 誰を乗せるか | 自分ひとり/夫婦/子ども | 友人/親 | 親族全員/帰省 |
| 何を積むか | 通勤かばん/買い物袋 | まとめ買い/子どもの用具 | 旅行の荷物/大きな買い物 |
| どこへ行くか | 職場/学校/スーパー | 郊外の店/病院 | 実家/旅行先 |
頻度の低い用途に、車を合わせないでください。 年に2回の帰省のために3列シートを買うと、残りの363日を大きな車で過ごすことになります。 駐車場でも狭い道でも、毎日その大きさと付き合うのです。 年に2回ならレンタカーを借りるほうが、多くの場合は安く、快適です。
ここが、この講のいちばんの要点です。 多くの人が「だいたい街乗りかな」で済ませてしまいますが、この比率が決まらないと、動かし方も車の大きさも決まりません。
| 高速の比率 | 変わること |
|---|---|
| 1割以下 (ほぼ街乗り) | ハイブリッドや軽が効く。小回りと駐車のしやすさを優先。力の余裕はそこまで要らない |
| 2〜3割 | どちらも中庸に。コンパクトカーやSUVがちょうどよくなる帯 |
| 3割以上 | 高速の快適さにお金を払う価値が出てきます。次の章の7つが、そのまま判断材料になります |
| 5割以上 | 車格・静かさ・運転支援を最優先に。ディーゼルや排気量に余裕のある車も候補 |
年に1回しか高速に乗らない人が、高速の快適さのために大きな車を買う必要はありません。 逆に、毎週のように高速で往復する人が軽自動車を選ぶと、体の疲れが積み重なります。 比率を数字にする理由は、この判断を感覚ではなく事実でやるためです。
高速道路が「疲れない車」と「疲れる車」の差は、はっきりあります。何が効いているのかを7つに分けました。
ホイールベースとは、前のタイヤと後ろのタイヤの間の距離です。これが長いほど、直進が安定します。 重い車のほうが路面の凹凸に揺さぶられにくいのも事実です。軽くて小さい車ほど、高速では落ち着きにくいという関係があります。
合流、追い越し、登り坂。ここで余裕があるかどうかは、安全にも直結します。 しかもカタログの数値は、たいてい運転手ひとりの状態の話です。 家族4人と荷物を積んだときにどうなるかを想像してください。人と荷物を積むほど、差が出ます。
高速で疲れる大きな原因が音です。音には種類があります。
遮音材をどれだけ入れているかは、価格帯にわりと素直に比例します。 ここは同じ車種の中でも、グレードによって差があることがあります。
2時間座って腰が痛くなるかどうかは、ほぼここで決まります。 背もたれの角度、太ももを支える長さ、腰のあたりの支え。 試乗のときは、必ず自分がいつも運転する姿勢に調整してから走ってください。 展示車で10分座ってみるだけでも分かることがあります。
前の車との距離を保って速度を自動で調整する機能(アダプティブクルーズコントロール)は、 高速でいちばん効く装備です。渋滞でもアクセルとブレーキの操作が減ります。 車線の中央を保つ機能と組み合わせると、長距離の疲れ方がはっきり変わります。
第2講で扱ったとおりです。ハイブリッドは街乗りで効き、高速では差が縮まります。 ディーゼルは一定の速度で走り続ける場面が得意です。 電気自動車は高速で電力の消費が増えるので、充電の計画が必要になります。
背の高い車は、橋の上やトンネルの出口で横風を受けやすくなります。 背の高い軽自動車やミニバンで高速をよく走る人は、ここを体で確かめておく価値があります。
店の周りを一周する試乗では、この7つのうち5つが判定できません。 「高速に乗るコースで試乗させてもらえますか」と頼んでください。断られることもありますが、聞く価値はあります。 高速比率が3割を超える人にとっては、これがいちばん重要な確認作業です。
棚おろしができたら、条件を3つの箱に分けます。これで候補が一気に絞れます。
| 箱 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 絶対に要る | これがないと生活が回らない。妥協しない条件 | 駐車場に入る大きさ/スライドドア/四輪駆動/3人以上乗れる |
| あるとうれしい | 優先はするが、他とのバランスで捨ててもよい | 大きな画面/サンルーフ/本革シート/特定の色 |
| 要らない | あっても使わない。ここを決めるのが実は大事 | 3列目/大出力/過剰な装備 |
「要らない」の箱をきちんと埋めた人は、店頭で迷いません。 勧められた装備に対して「それは要らない箱です」と即答できるからです。 逆に、この箱が空っぽのまま店に行くと、全部が魅力的に見えます。
| 失敗 | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
| 頻度の低い用途に 合わせてしまう | 年数回のために大きな車を買い、毎日その大きさに苦労する | 年に数回のことは、借りる・別の手段を使うと決めてしまう |
| 人数を最大で 考えてしまう | 7人乗りを買ったが、実際は2人で乗ることがほとんど | いちばん多い乗車人数で選ぶ。最大人数は例外として扱う |
| 荷物を最大で 考えてしまう | 大きな荷室を求めて車が大きくなり、駐車場が窮屈になる | いちばん多い積み方で選ぶ。年1回の大荷物は積み方を工夫する |
3つとも根は同じです。例外に合わせて日常を犠牲にしているという構造です。 車選びに限らず、大きな買い物ではよく起きます。気づけるだけで、選び方が変わります。
これから1週間、車で移動した距離を記録してみてください。スマホの地図アプリの履歴でも十分です。 1週間ぶんが分かれば、1年ぶんはかけ算で出ます。 自分の数字を持っている人は、店頭でも、ネットの書き込みの前でも迷いません。