こんにちは。秋元進吾です。
先に種明かしをすると、今日の話で私が打った長い指示は、たったの1回です。
あとは「お願いします」を7回。舵を切ったのが3回。ダメ出しが2回。それだけで、45分の授業案1本が、全7時間・ファイル6本の教材キットに育ちました。
AIに丸投げした話ではありません。むしろ逆で、「AIと一緒に育てる」とはどういう作業なのかが、これ以上ないくらい素直に記録に残った15往復でした。失敗も1つ、白状します。
できあがった教材は、記事の最後で無料で配っています。先に受け取ってから読んでもらっても大丈夫です。
出発点はこんな依頼でした。
『走れメロス』を45分授業で扱う案を作成。導入10分・本文精読20分・まとめ15分に分け、登場人物の心情を考える発問を3つ含めて
ポイントは、時間配分と「発問3つ」まで指定したこと。「授業案を作って」だけだと、AIはどこかで見たような一般論を返してきます。最初の1回だけは、欲しいものの輪郭を具体的に描く。ここはサボりませんでした。
返ってきた授業案は、正直、悪くないどころではありませんでした。導入は「もし友達のために自分の命をかけるとしたら?」のペア対話から。発問は「なぜ友を人質にしたのか」「『もうだめだ』からなぜ立ち上がれたのか」「再会したふたりはどんな気持ちか」。
そして応答の最後に、AIがこう聞いてきたんです。
「板書計画やワークシートまで落とし込みますか?」
ここからです。私がやったことは、ほぼ相槌でした。
「心情を想像する力を養うのにいい教材は他にある?」と聞けば、『ごんぎつね』『大造じいさんとガン』『注文の多い料理店』『雪女』と候補が8作品。「お願いします」と言えば単元構成になり、もう一度「お願いします」で単元計画表になり、板書計画になり、ワークシートになり、授業の台本になり、そのまま声に出して読める導入原稿になり、指導案になり、Wordファイルになり、評価規準表になりました。
時に授業案、時に一覧表、時に台本、時に読み上げ原稿。転がすたびに雪だるまが大きくなっていく感覚です。
私が舵を切ったのは3回だけ。
つまり、人間の仕事は「量を出すこと」ではなかったんです。
つまり、、方向を決めることと、品質に文句を言うことでした。
「AIすごい」で終わらせたくないのは、ここからが本題だからです。
15往復を読み返して気づいたのは、雪だるまを転がし続けた推進力の正体でした。AIは毎回、応答の最後に「次はここまで作れますが、やりますか?」と一歩先の選択肢を差し出してきます。私はそれに乗り続けただけ。
でも実は、この「乗り続ける」が、多くの人がやっていないことなんです。
1回目の回答を見て「ふーん、こんなもんか」と閉じてしまう。もったいない話で、AIの回答は1回目が完成品ではなく、1回目は叩き台の提案です。提案に乗るたびに、成果物は一段ずつ具体的になっていきます。45分の授業案が7時間のキットになったのは、性能の話ではなく、往復の話でした。
正直に打ち明けると、私は最初、45分ぶんの授業案が1本ほしかっただけでした。7時間の教材キットを作るつもりなんて、まったくなかったんです。その日の私に「これ、あとでファイル6本になるよ」と言っても、たぶん笑って信じなかったと思います。
いいことばかり書いてきましたが、この15往復には、最後まで誰も気づかなかった誤りが1つ埋まっていました。
最初の依頼文で、私は「小学5年国語の『走れメロス』」と書いていたんです。
『走れメロス』は、中学2年の定番教材です。小5の教科書には載っていません。そしてAIは、15往復のあいだ一度も「それ、中2の教材ですよ」と言いませんでした。指摘しなかったのではなく、私の前提を丁寧に尊重し続けたわけです。授業案も台本も指導案も、ぜんぶ「小5向け」のまま完成していきました。
AIは、間違った前提の上にも、
完璧な建物を建てます。
だから、前提の事実確認だけは人間の仕事です。今回のキットではこの誤りを直し、そもそも学年の枠に縛られない「塾・家庭学習・自由授業向けの心情読解プログラム」として作り直しました。
ここからが、この記事でいちばん手間をかけたところです。
「メロスは中2」を確認するなら、ついでに全作品やってしまおうと思い、教科書会社の公式資料(教材出典一覧・年間指導計画)を1件ずつ当たりました。そうしたら、学年よりもっと大事なことが出てきました。
| 作品 | 学年 | 掲載している教科書会社 |
|---|---|---|
| 走れメロス(太宰治) | 中学2年 | 東京書籍・教育出版・光村図書・三省堂の4社すべて |
| ごんぎつね(新美南吉) | 小学4年 | 小学校国語の3社すべて |
| 大造じいさんとガン(椋鳩十) | 小学5年 | 3社すべて(表記は光村=「ガン」、東書・教出=「がん」) |
| 注文の多い料理店(宮沢賢治) | 小学5年 | 現在は東京書籍のみ(光村・教育出版には掲載なし) |
| スーホの白い馬(大塚勇三・再話) | 小学2年 | 光村図書のみ |
| 雪女(小泉八雲) | — | 小中の教科書に本文教材としての定番配当なし |
学年の数字は、6件とも合っていました。でも、そこじゃなかったんです。
『注文の多い料理店』は、いま3社中1社にしか載っていません。 光村図書にも教育出版にも、ありません。同じように『スーホの白い馬』は光村図書だけです。
つまり「小5の定番教材ですよね」と言った瞬間、光村を使っている地域の子には「習ってないけど」となる。光村は小学校国語でシェアが最大なので、けっこうな人数が置いていかれます。
これ、調べなければ絶対に気づきませんでした。私自身「教科書の定番=全国共通」となんとなく思い込んでいたので。
だからキットには、配当表と一緒にこう書き添えました。「習っていない学習者がいても自然です。あらすじの確認から入ると安心して始められます」と。教える人が現場で戸惑わないように、です。
※学校図書は令和6年度版から小中の国語教科書の発行を終えています。上記は2026年7月時点で各社の公式資料を確認したものです(東京書籍 小学校国語 教材出典一覧/同 中学校/光村図書 中学校国語2年)。改訂で変わることがあります。
15往復から持ち帰れる型は、この3つだけです。
難しいプロンプト技術は、1つも出てきませんでした。必要だったのは、具体的な最初の一手と、乗り続ける相槌と、たまのダメ出し。それだけです。
こうして生まれた「心情読解プログラム」は、5つの物語で「登場人物の心情を想像する力」を段階的に育てる、全7時間の読解プログラムです。
ごんぎつね(伝わらない気持ち)→ 大造じいさんとガン(敵への敬意)→ 注文の多い料理店(不安と恐怖)→ 雪女(約束と裏切り)→ 走れメロス前後半(友情と信頼/絶望から希望)と、心の幅がだんだん広がっていく順番に並べてあります。
使う人によって必要なものが違うので、入り口を2つに分けました。
ZIPには編集用のMarkdownが入っています。ご自分の言葉に書き換えて使ってください。
物語の本文は入っていません。下の「まず、物語を読む」からどうぞ。
名前もメールアドレスもいりません。そのままダウンロードできます。
ファイルを落としてから1つずつ開くのは、スマホだとけっこう大変です。とくにお子さんには操作が難しいので、そのままブラウザで読めるページを用意しました。
まとめて見たいときは キットの目次ページ からどうぞ。各ページからPDF版にも行けます。
キットには物語の本文は入っていません。著作権の関係もありますが、それ以上に「どの版で読んでもいい」ようにしたかったからです。
とはいえ「各自ご用意ください」だけでは不親切なので、いますぐ無料で読めるところにリンクを置いておきます。青空文庫は著作権の切れた作品を無料公開している電子図書館で、スマホでもそのまま読めます。
『大造じいさんとガン』だけは、椋鳩十さんの著作権がまだ生きているため無料で読める場所がありません。小学5年の国語教科書(3社とも掲載)か、文庫でお読みください。差し替えたい場合の候補はキット05にまとめてあります。
もしお子さんと物語を読む機会があれば、第1時の『ごんぎつね』だけでも試してみませんか? 導入の問いは「伝えたいのに伝わらなかった経験、ある?」です。物語より先に、親子の話が弾んでしまっても、それはそれで大成功だと思うので。