こんにちは。秋元進吾です。
連載「誰も教えてくれなかった仕組み」、2本目です。
先日、社会の仕組みを1枚の地図にしました。この連載では、その地図のマスをひとつずつ拡大しています。
今回のマスは、給料明細にしました。
働き始めた人が、いちばん最初につまずく仕組みだからです。
求人票には、月給20万円と書いてあった。
なのに、通帳に振り込まれた数字は、それより数万円少ない。
あれ、と思って明細を見ると、知らない言葉がずらっと並んでいて、それぞれ何かが引かれている。
だまされたんでしょうか。
違います。求人票の金額も、振り込まれた金額も、どちらも正しいんです。ただ、そのあいだにある仕組みを、誰も教えてくれなかっただけです。
学校では習いません。会社も、入社の書類は渡してくれますが、明細の読み方までは教えてくれないことが多い。親に聞いても「そういうものだ」で終わりがちです。
だから今日は、その「そういうもの」の中身を、順番に開けていきます。
まず、明細の全体を地図にします。
給料明細は、どの会社のものでも、だいたい3つのブロックでできています。
ひとつめ、支給。会社があなたに払うお金です。基本給と、いろいろな手当。この合計が、いわゆる「額面(がくめん)」です。求人票に書いてあった月給は、こちらの数字です。
ふたつめ、控除(こうじょ)。額面から差し引かれるお金です。今日の主役はここです。
みっつめ、差引支給額。支給から控除を引いた、実際に振り込まれる金額。いわゆる「手取り」です。
つまり、こういう式です。
求人票と通帳の差の正体は、まんなかの「控除」です。では、そこで何が引かれているのか。
会社や条件で多少変わりますが、控除欄の常連は、だいたいこの5つです。ひとつずつ、何のためのお金で、どこへ行くのかを見ていきます。
病院の窓口で、支払いが3割で済んでいるのは、この会費のおかげです。
みんなで毎月出し合っておいて、病気やけがをした人の医療費を、みんなで持つ。先日の記事で、税金はまちの割り勘の会費、という話をしましたが、これは医療の割り勘です。
年をとって働けなくなったときに、お金を受け取れる仕組みの会費です。
いま働いている世代が出したお金が、いまの高齢の世代に渡る、仕送りのような形で回っています。控除の中では、たいていいちばん大きい項目です。年金の仕組みそのものは大きな話なので、この連載の別の回でじっくりやります。
仕事を失ったときに、次の仕事を探すあいだの生活を支えてもらえる仕組みの会費です。
金額は5つの中でいちばん小さい部類ですが、いざというときの命綱がこの1行です。
国の会費です。
ここでひとつ、大事な仕組みの名前を覚えてください。源泉徴収(げんせんちょうしゅう)。あなたが納めに行くかわりに、会社が給料からあらかじめ差し引いて、まとめて国に納めてくれる仕組みです。
つまり、あなたは毎月、税金を納めています。自分で手続きしていないだけで。
住んでいるまちの会費です。道路や、ごみ収集や、学校。先日の記事で歩いた「今日すでに使っている税金」の、地元ぶんがこれです。
ただし、働き始めた1年目の明細には、この行がないことが多いんです。
なぜか。ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
住民税には、変わった性質があります。
去年の所得に対して、翌年に払う仕組みなんです。
働き始めた1年目は、その前の年の所得がない(少ない)ので、引かれる住民税がほぼありません。だから1年目の明細には、住民税の行が見当たらないことが多い。
そして2年目の6月ごろ。
明細に、住民税の行が突然あらわれます。手取りが、前の月より下がります。
何も知らずにこれを迎えると、けっこうびっくりします。仕事ぶりが評価されなかったのか、何かの間違いか、と不安になる人もいます。
間違いではありません。故障でもありません。最初からそういう仕組みです。
先に知っていれば、こわくありません。むしろ、2年目の6月が来る前に「そろそろ住民税が始まるな」と構えていられる人は、お金の仕組みに関しては、もう初心者ではないと思います。
ついでにもうひとつ、未来の話を。40歳になると、介護保険料という会費がこの仲間に加わります。これも、来ることを知っていれば、驚かずに済みます。
じゃあ、結局いくら引かれるのか。
率は、収入や条件や年によって少しずつ変わるので、この記事に正確な数字は書きません。正確な数字は、世界でただひとつ、あなたの明細だけが教えてくれます。
そのかわり、ざっくりの目安をひとつ。
だから、求人票やこれからの生活を考えるときは、書いてある月給に0.8をかけてみてください。それが、実際に使えるお金の目安です。月給20万円なら、手取りはざっくり16万円くらい。この掛け算をするだけで、家賃や生活費の計画が、現実の数字で立てられるようになります。
最後に、見方の話をひとつ。
明細の控除欄は、「取られているお金の一覧」に見えます。
でも、今日開けてきた中身をならべ直すと、こうなります。病気になったときの割り勘。年をとったときの仕送り。仕事を失ったときの命綱。国とまちの会費。
つまり、、、控除欄は、未来の自分と、まわりの人への、先回りの支払いの一覧なんです。
しかも源泉徴収のおかげで、あなたは毎月の納付の手続きを、ひとつもしなくていい。会社が代行してくれています。あれは手間の肩代わりでもあるんです。
もちろん、この会費の金額や使い道をどう考えるかは、人によって意見が分かれるところです。この連載は、そこには立ち入りません。会費の使い道を決める係を選ぶ場が選挙だ、という話は、社会の仕組みの記事に書いたとおりです。仕組みを知ったうえでどう考えるかは、いつもあなたの主導権です。
この記事の仕事は、明細を「知らない言葉の並んだ紙」から「読める紙」に変えることまで。そこから先は、お渡しします。
今日やることは、ひとつだけです。
そして「これは何の会費だったっけ」と、今日の記事を思い出してみてください。
明細がまだ手元にない人は、気になる求人票の月給に、0.8をかけてみてください。それが、あなたの生活の設計図に書き込むべき数字です。
人生は、たとえ遠回りしても、いつでも今からリニューアルできます。
明細が読めるようになった今日が、その一歩です。
この連載の地図(1枚目)はこちら。
18歳で何が変わるかは、こちら。
連載の棚はこちら。
次回は、だましの仕組み。狙う側が使っている型を、先に知っておく話です。
知らなかったのは、あなたのせいじゃない。習ってないだけです。
秋元進吾でした。